©2023 Tani-Roku Futonya KUGA
カラダチョイ悪おやじの…
「絶品ジェラート」
「アンタとこ、商売初めて何年くらいになるんや?」
その好好爺は、うちで枕をお買い求めいただいた後、おもむろにこう問い掛けてきました。
「かれこれもう百年近くになるでしょうか……」
「そりゃ、凄いなぁ! ワシんとこも谷町筋でジェラートの店をやってんねんけど、そういうの聞くと同じ商売人としてめちゃ嬉しいわ~!」
「えっ、そうなんですか!? お名前は、何というお店ですか?」
「チルコドーロ! 場所は谷町七丁目交差点ツルヤゴルフ隣! 後でワシんとこのめっちゃ美味しいピスタチオのジェラート持ってくるさかい、皆で食べてーな!」
「あ、ありがとうございます。でも、それならちゃんと代金はお支払いしますので……」
「何、言うてんねんっ!! ワシはアンタとこで買物できて嬉しいんや!ワシからの気持ちや~!」
歳のころは70前後といったところでしょうか。 目を輝かせ、まくし立てるように話され、ご来店からすっかりペースを握られっぱなしでしたが、それがまったく嫌味にならず憎めない。確かなことは、この方とお会いすると誰しもが心のシャッターをガラガラとこじ開けられてしまうだろうということ…(笑)。
それにしても、まさかうちでお買物いただいた上に、ピスタチオのジェラートまでいただけるとは…。
約束通り一旦帰られた約一時間後、ジェラートを五つ差し入れて下さいました。
「ごめんなぁ、ピスタチオは最後の三つで売り切れやったさかい、メロン味のやつ二つ混じってるで~」
いやいやいやいや、とんでもない…! 何度も代金をお支払いすると言うのに頑なに拒否、これ以上、言っては逆に失礼と思い、お言葉に甘えさせてもらいました…。
「溶けんうちに食べな~!」
そう捨て台詞を残し、お父さんはそそくさと愛用の自転車に乗って去っていったのでした…。
後にいただいたピスタチオのジェラート(『シチリアのピスタチオ』という名称であることを後で知りました)が濃厚で美味しかったこと。
ジェラートの甘さとピスタチオのクリーミーな苦みが拮抗し、醸し出される風味とコクがたまらない…。それもそのはず、後にネットで調べるとジェラート好きの方々の間ではかなり有名なお店だったんですね…。
どうやら、うちにご来店いただいた好好爺は、『チルコドーロ』のお父さんだったようで、元々、ケーキ店を営んでおられたところに、ジェラートに魅了されイタリアで修行を積まれた娘さんがジェラートを始められたとのこと。
それから、近いうちに寄らせてもらおうと思いつつ暫く忙しさにかまけ、お店に足を運ぶことができずにいましたが、偶然、グルメ投稿サイトRettyで『チルコドーロ』に来店された方の投稿を目にし、ビターチョコのジェラートがあまりにも美味しそうだったため、矢も楯もたまらずお店に足を運んでチョコ味の『アモーレ・デッラ・ルーナ』を四つテイクアウト…。
あいにく、お父さんは不在だったので、息子さんにお礼の伝言をお願いしました。
「あぁ、親父、喜んでましたよ~あの枕、具合がいいって!」
「ありがとうございます。良かったです。でも、ほんとお元気なお父さんですね~」
「いや~あぁ見えても、ちょいワル親父なんですわ…カラダ、ちょいワル親父!あちこち痛んでまして…(笑)」
「あははは~そういうことですか!(笑)」
あのお父さんにしてこの息子さんありか、心の中でそう思いました…。むろん、そんなことは口にはしませんでしたが…(笑)。
ジェラートを店に持ち帰り、早速、皆でいただくと、イタリアのジェラートコンテストで四位入賞を果たしたという『アモーレ・デッラ・ルーナ』も絶品。酒粕を隠し味に使用しているというビターなチョコレート味は、濃厚なのにどこか透明感があり、クリーミーでありながらあっさり、後味までエレガント! 酒粕の芳醇な余韻を残しつつ口の中で溶けていく感覚は癖になる美味しさで、こちらもスタッフ一同、大好評でした。
良いご縁をいただき、お父さんには本当に感謝です。これからちょこちょこ通わせてもらいます。
(今回のお話は2018年『眠りの楽屋裏通信vol.57号』に掲載したものです)。
■ ジェラテリア「チルコドーロ」
場所/大阪市中央区谷町7-3-4新谷町第三ビル114 交通/地下鉄谷町線「谷町六丁目」④出口より徒歩1~2分 tel/06-6767-0515 営業時間/11:00-19:00 定休日/水曜日
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