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「カレーうどんかいっ!!」
東京池袋 信州蕎麦『ここのつ』
今から数20年前、友達と東京に遊びに行った際、池袋にある『ここのつ』という有名な蕎麦屋さんに足を運びました。
店内は、お昼はとうに過ぎた時間帯なのに満席状態。さすがに老舗人気店と思いつつ、僕らは入り口付近で立ち往生することに…。
すると、親切なサラリーマン風のおじさんが「兄ちゃんたちここ座んなよ」と、やさしく相席をすすめてきてくれるではありませんか! 東京人は冷たいって聞いていたのに何て親切な人だろう…ちょっと感激。ご好意に甘え、相席させてもらうことに…。
席に着くなり、その人の良さそうなおじさんは、僕らに色々話し掛けてきました。
「兄ちゃんたちどっからきたんだい?」
「ほぅ~関西からきたんだ~」
「へぇ、わざわざここの蕎麦を食べにきたの!?」
「ここの蕎麦は格別だよ!」
「僕は大ファンで毎日通ってるんだよ」
はるばる大阪から蕎麦を食べにきてくれたのが、地元贔屓のこのおじさんにとってよほど嬉しかったのでしょう。おじさんはますます饒舌に、熱く語り始めました…。東京の蕎麦文化、蕎麦の美味しい食べ方、東京人の蕎麦に対するこだわり…。僕らはまるでレクチャーを受ける受講生状態…。
そして、おじさんの熱弁が最高潮に達したその時「へい、おまち!」と、店員さんが注文したどんぶりを持ってきました。…し、しかし、僕らは目を疑いました。そこにあったのは、おじさんがこよなく愛する蕎麦ではなく、な、何とカレーうどんだったからです…。
「カレーうどんかいっ!!」
……と、親切な東京のおじさんに、関西仕込みのするどいツッコミみを浴びせるわけにもいかず、しばし、重い沈黙が…。もちろんおじさんがそれ以降、蕎麦について語ることは一切ありませんでした…。
「じゃ気を付けて帰るんだよ」
カレーうどんを食べ終えたおじさんは、やさしい言葉を残してそそくさと立ち去っていきました…。しかし、僕は見逃しませんでした。
おじさんの白いカッターシャツに、お約束の黄色い【カレーうどん染み】が付いていたことを…。
20年近く経った今も尚、その鮮やかな染が目に焼きついて離れません…。あのおじさん今頃どうしているでしょう…。
こんな話ししたらカレーうどんをホントに食べたくなってきました。^^ 美味しいお店があったら僕に教えて下さいね !
(今回のお話は2008年『眠りの楽屋裏通信vol.26』に掲載したものです)。
*池袋の『ここのつ』という蕎麦屋さんは、その後、廃業されたようです。残念です。