©2023 Tani-Roku Futonya KUGA
運が良いやら悪いのやら…
台風19号ハギビス
ドシン、ドシン、ドシン……と、体育館を出入りする人々の重い足音が床越しに伝わってくる。入館する際、「これしか支給するものがない」と渡されたダンボール1枚が意外と快適で、ウトウトしかけたところに携帯電話の緊急速報のコール音が館内に鳴り響き、叩き起こされる。真夜中を過ぎ、避難者の顔にも次第に不安と疲労感が滲み始めている…。
日本列島に甚大な被害を与えた台風19号「ハビビス」が直撃したあの日、ぼくは、1週間前から帰省していた嫁(様)を迎えに、前日の晩から長野入りしていました。
嫁(様)の実家は長野県千曲市。
氾濫した千曲川から直線距離で約200m程しか離れていないところにアパートがあります。
「千曲川は河川敷も広いし、ここが浸かるなんて余程のことがない限りないよ~~」
そう楽観視するお義父さんの言葉に一抹の不安を抱きながらも、台風直撃の夜、皆でのんびりとテレビを見ながら談笑していました(信州の人って四方山に囲まれているせいで、台風をかなり過小評価する傾向があります)。
しかし、上田市国分、小布施町、松代町と相次いで千曲川氾濫の速報が入り、更に実家の丁度対岸に位置する篠ノ井横田地区越水のニュースに居てもたってもいられなくなり、「堤防を見に行くなんて、絶対、馬鹿な行動はするなー!」と、猛反対するお義母さんの制止を振り切って嫁(様)様と土手に向かい、我が目を疑う光景を目の当たりにしたのでした。
広大な河川敷は既に見る影もなくどっぷり浸かり、堤防1杯に上昇した不気味な黒いうねりは、ゴウゴウと恐ろしい轟を立て、今にも溢れんばかりに推移が上昇しているではないですか…。
まるで東映映画で怪獣に遭遇した村人A・Bのごとく、二人で大慌てで今来た道を引き返すと、僕ら以外のアパートの住民はとっくに非難し、蛻の殻になっていました。
これは、一刻も早く非難しないと大変なことになる…。
それでも、「えぇ~~っ、避難すんの~?俺は大丈夫だと思うよ~っ…」と、あくまで呑気なお義父さんを何とか説得し、避難指定されている屋代高校まで車で避難したのは、夜の11時過ぎのこと。
同校、体育館でい一夜を過ごすことになったのでした。
結局、体育館で悶々と夜を過ごし、明け方近くに水位が下がったことを確認した上で戻ったので、事なきを得たのですが、朝のニュースで長野市穂保地区付近の堤防が70mに渡り決壊、千曲川だけで全6箇所も氾濫しており、お義母さんの職場や同級生の自宅が浸水したり、嫁(様)がこよなく愛する信州に尋常ならざる被害が出ていることを知ったのでした…。
今回の災害避難で大きな教訓となったのは、【自分が目の当たりにしている状況だけを決して信じてはいけない】ということ。
実際、現地、長野にて凄まじい雨が降っていたわけでもなく、僕の中にも、「大した雨やないし、そんな心配ないやろ…」という希望的観測が入っていたことは否めません。
しかし、蓋を開けてみると、千曲川のいたるところで大きな氾濫があり、現状を見て今までの経験則で判断していたら大変なことになっていたかも知れず、スマホやパソコンなどで「台風情報」をつぶさに確認しておくことの大切さを痛感させられました。
今回、とても役立ったのが、『NHKニュース防災』というスマホアプリです。
このアプリを使うと、台風の現在地、今後の進路予想がでてくるばかりでなく、全国の河川の水位状況や危険度、雨雲の動きなどもGPSと照らし合わせ確認でき、台風の動きが手に取るようにわかり、地震時も、震源地や震度情報も出てきて、災害時の心強い味方になります。
それにしても昨年の台風21号に相次ぎ、今年も自然災害に翻弄される羽目になるとは、ホント不徳のいたすところ…。
幸い大事には至らず、今年も無事戻ってこれたのですから、まったく、運が良いのやら悪いのやら…。
来年こそはこんなことをないよう祈ります。
(今回のお話は2019年『眠りの楽屋裏通信vol.61』に掲載したものです)