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コロナ禍と『男はつらいよ』

久しぶりに里帰りでもするような気持ちで…

第1作『男がつらいよ』が公開されたのが1969年。渥美清さん他界に伴い、一旦シリーズを閉じた48作『寅次郎紅の花』公開が1995年(その後、第49作『寅次郎ハイビスカスの花』と第50作『お帰り寅さん』公開)。

「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又、帝釈天で産湯をつかい、性は車、名は寅次郎、人呼んでフーテンの寅と発しやす……」

ご存知、『男はつらいよ』シリーズの山本直純氏のテーマ曲とお馴染みの名口上が聞こえてくると、懐かしさと安堵感に包まれ、一連のコロナ騒動もまるで別世界の出来事のように思えてくるから不思議です。

最近は暗いニュースが多くて、動画配信で昔の映画を好んで観ていますが、この【寅さんシリーズ】は、ストレスの溜まる自粛生活には打って付け。

お約束のタコ社長との取っ組み合いの喧嘩。マドンナとの出会い、そして失恋。

他愛もない日常に他愛もない出来事、そこに一喜一憂する登場人物たち。

展開としてはドタバタ喜劇ですが、この作品の面白さは、何と言っても渥美清氏演じる【寅さん】というキャラクターの魅力に尽きると思います。

普段は、粗野で乱暴な寅次郎が、マドンナに恋をした途端、初心で純真な中学生のように豹変

立て板に水の如く口上をまくしたてカッコ付けてたかと思うと、縁側で障子のヘリに寄りかかろうとしてズルっと滑り、勢い余って庭に転げ落ちたり敷居に足の指先を打ち付けて痛がったり、笑いというものが、ヒステリックな感情の落差から生まれることがこの作品を観ているとよくわかります(渥美清さんのコケ方がまた絶妙なんですよね)。

「魅力ある人間は、自己顕示と自己憎悪が双子のように繋がっている」という幻冬舎の見城徹氏の名言がありますが、寅さんも、粗野で乱暴なだけなら単なる【野蛮な人】ですが、そこに純粋かつ、繊細な部分が同居しているからこそ、観ていて感情が揺れ動かされ、人として魅力的に映るんですね。

寅さんシリーズは、子どもの頃から親しんできましたが、今回改めて自分がこの一連の作品に【安心感】を求めていたことに気付きました。

寅次郎は相変わらず恋をし、馬鹿をやらかし、再び旅に出る。

観る者は、その劇中の出来事を温かく見守り、そして最後は「やっぱり日本人っていいなぁ」と清々しい余韻を残しながら物語は幕を閉じる。

それはあたかも、田舎に帰省し、親戚たちと再会するような心地良い安堵感

『とらや』は、寅次郎の故郷であると同時に、観る者の心の中に【故郷】として存在し続けていたんですね。

寅次郎から滲み出る哀愁は、俳優、渥美清氏が自分の人生を犠牲にし【寅さん】を演じ切った「哀しみ」から発しているように思えて仕方ありません。

1969年のシリーズ誕生から1995年の渥美清氏他界に伴う一旦のシリーズ終了の27年間(これは奇しくも僕の青春時代とほぼ重なります)、時代がどんなに変わろうとも、いや、時代が著しく変化したが故に、【寅さん】が変わらず存在し続けていてくれたことが、心の支えになっていました。

今年はコロナ禍が起こり、オリンピック延期、世界中が大混乱に陥りましたが、こんなご時世だからこそ、メディアからあえて距離を置き【現実逃避】する時間も大切かと思います。

センセーショナルに伝え、人々の目を釘付けにしてスポンサーや視聴者からお金を頂くのがマスコミの「お仕事」ですが、でも、そのことで、私たちが不安や恐怖に苛まれ、満足に眠れず、免疫力を低下させてしまっては本末転倒…。

心が沈みがちになったときは、久しぶりに里帰りでもするような気持ちになって『寅さん』に【会いに】行ってみては如何でしょう。

彼は、何時如何なるときも、温かく我々を迎え入れてくれるはずですから……

(今回のお話は2020年『眠りの楽屋裏通信』vol.62に掲載したものです)

#男はつらいよ #寅さん #渥美清 #葛飾柴又 #コロナ禍