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何と人騒がせな…
救急車搬送された嫁(様)の信じられない一言
所帯を持って間もない頃。嫁(様)が、原因不明の腹痛に悩まされていた時期がありました。大抵しばらくすると痛みは治まり、あまり深刻に受け止めていなかったのですが、その日の朝はちょっと様子が違っていました。
朝食を取ろうとキッチンまで下りると、嫁(様)が朝の支度をしながら、例の腹痛をうったえていました。
まぁ、いつものこと、すぐに治まるだろうと高をくくっていましたが、この日は、治まるどころか時間と共に痛みが増し、遂には、顔を歪ませ「痛い、痛い」と、七転八倒し始めるではありませんか。
そのただならぬ様子に、救急車を呼んだ方がいいかと訊ねると、顔を歪めながらコクリと頷いたので、一刻を争う事態と意を決し119番通報。
隣に住む母にもことの顛末を伝え、嫁(様)のお腹を擦りながら救急車が来るまで励まし続けました。
ものの5分もすると、救急車が駆け付けました。
隊員らに症状を伝え、嫁(様)は、ストレッチャーに乗せられ運び出されました。
一歩、外に出ると、サイレンを聞きつけたご近所さんらが救急車をぐるりと取り囲んでおり、嫁(様)はその中、パジャマ姿のまま、顔をバッテンマークに歪ませ、救急車に乗せられました。
救急隊員に、近くならA病院とB病院があるが、どちらを希望するかと訊ねられ、すかさずB病院と答えました。
距離的には近いA病院ですが、そこは「あの世橋病院」と呼ばれる異名があり、あまり評判がよろしくない。
僕は、着替えなどを取りに戻ることも視野に入れ、救急車には母だけ同乗させ、戸締りをして、自分の車で後から追いかけることに…。
母と嫁(様)を載せた救急車は、けたたましいサイレン音を鳴らしながらB病院へ向かったのでした。
B病院に遅れて到着すること15分…。
フロアに溢れる人垣をかき分け、受付で「先程、腹痛を訴えて運ばれてきた身内のものですが…」と訊ねると、救急科に案内され、診療室の前のベンチに神妙な面持ちで座っていた母がこちらに気付き、手招きしました。
「みゆきは?」
「今、中で検査してもらってる……」
「どうだって?」
「まだ、わからん……」
続く会話が見つからず、なすすべなく、ただ、待つしかありません。
このまま緊急手術・緊急入院ということも覚悟しました。
昨日までの平和な日常が音を立て崩れ、不安に押しつぶされそうになるのを必死でこらえていると、治療室から嫁(様)がひょっこり出てきました。
「ど、どうだった、大丈夫か?!」
「みゆきちゃん、お腹の具合どうなの?!」
嫁(様)は、蒼白な顔で不安をおし隠す様子もなく、僕たちに向い信じられない一言を発しました。
「…………(ゴニョゴニョ……)」
「ん?!、何て?どないしたって?」
「…ってしまった、。。」
「何て?! もういっぺん言ってみ?」
「だから、治ってしまったの…お腹痛いの!」
思わず母と、顔を見合わせてました…。
嫁(様)は、叱られた犬のような表情でこう続けました。
「救急車に載せられたときは、滅茶苦茶痛かったけど、病院に着く頃には治ってしまって、逆に焦った、。。」
後に嫁(様)をきつく尋問したところでは、痛さを10段階評価で表すと、
・自宅で腹痛をうったえていたときが10
・救急車で搬送されているときは8となり
・病院に着き、子宮捻転の可能性があるため、腹部エコーを受けているときは5に半減
・妊娠の疑いもあるため、尿検査したときは既に3に
・その後、レントゲン、CTスキャンを撮影しているときに至っては0になっていた
・・・ことを白状しました。
しかも、各検査が終わるごとに、母と顔を会わせてますが、バツの悪さからお腹が傷む【フリ】をしていたという始末…。
その後、精密検査でも何ひとつ異常が見つることもなく、それ以上、病院に留まる理由もなく、家に連れて帰ることに…。
また、原因不明の腹痛もその後ピタリと治まり、今では、クジラのパジャマ姿で救急車搬送されたこと。
それを多くのご近所さんに目撃されたことは、わが家の笑い話となり、「落ちてたもんでも拾って食ったんじゃないか?」などと、からかいネタにしています。
でも、一時は本当にどうなることかと思いました。
大事に至らず本当に良かったのですが、このときのことを思い出す度、この一言が頭に浮かんでしまいます。
何と人騒がせな!……。^^
(今回のお話は2021年『眠りの楽屋裏通信』vol.64に掲載したものです)
後日談
因みに搬送されたときに着用したパジャマは、あまりの恥ずかしさに即効で廃棄したようです(笑)。
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