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─ジテロン星人の地球人調査報告書─ No.001
「地球人は何故、夜悩みだすと眠れなくなるのか?」
地球人には、昼間は比較的問題なく生活しているにもかかわらず、夜になり、横になった途端に突然「人生について考え始める」という奇妙な習性が確認されている。
さらに興味深いことに、考えれば考えるほど不安が増大し、不安が増大するほど眠れなくなり、眠れなくなるほどさらに考えるという、極めて非効率的な循環行動を繰り返す個体が存在する。
我々は、この現象を「夜間思考暴走」と暫定的に命名した。
1.暗闇によって「内宇宙」が拡大する
地球人は昼間、視覚・聴覚などを通して大量の外界情報を受け取っている。
しかし夜、特に照明を消すと、外界から入ってくる情報量が急激に減少する。
すると地球人の脳内では、奇妙な現象が発生する。
外界が小さくなるにつれて、内界が大きくなるのである。
昼間は、
「仕事」
「人」
「道路」
「店」
「電話」
「食事」
など、現実世界が地球人の意識を次々と引き受けてくれる。
ところが夜になると、それらが消える。
すると脳内に余白が生まれる。
そして地球人は、その余白を埋め始める。
最初は、
「明日の仕事、大丈夫かな」
程度である。
しかし脳内には物理的な距離も時間的な制限も存在しない。
そのため、
「もし失敗したら」
「その場合はどうなる」
「そういえば以前も……」
「この先どうなる」
「老後は……」
と、まだ発生していない未来へ容易に移動する。
つまり夜とは、地球人にとって、
「外宇宙が縮小し、内宇宙が拡張する時間」
なのである。
2.ところが身体は、ほぼ活動停止状態にある
ここで重大な矛盾が発生する。
地球人は横になる。
手足は自由に動かせるものの、実質的には活動を停止しようとしている。
ところが脳は停止していない。
つまり夜の地球人には、
脳内世界の自由度は拡大しているのに、身体の行動自由度は縮小する
という「自由度の反転現象」が発生する。
昼間なら、
不安 → 考える → 対策を思いつく → メモする → 行動する → 現実が変化する
というフィードバックが可能である。
しかし夜間は、
不安 → 考える → 対策を思いつく → しかし今は動きたくない → 行動できない → 現実が変化しない
という状態になる。
地球人はここで困惑する。
「問題を解決したい」
しかし、
「今は眠らなければならない」
のである。
3.地球人は二方向から同時に追い立てられる
さらに調査を進めたところ、夜間思考暴走には二種類の焦りが存在することが判明した。
第一の焦り
「今すぐ問題に対処したい。しかし今は行動できない」
第二の焦り
「今すぐ眠りたい。しかし今すぐ眠れない」
つまり地球人は、
「行動できない焦り」と「眠れない焦り」
から同時に攻撃される。
これは極めて不利な状況である。
問題を解決するために起き上がれば睡眠を失う可能性がある。
睡眠を守るために何もしなければ、問題が解決しないように感じる。
その結果、地球人はベッドの上で、
「何もしない」という行動をしながら、脳内では必死に問題解決を続ける
という奇妙な状態になる。
4.地球人の脳には「未処理案件」を置いておける量に限界がある
さらに興味深い特徴が発見された。
地球人の脳は、コンピューターのように思考内容を完全に保存できない。
そのため、ある不安について考えている途中で、別の不安が出現する。
そして別の不安について考えている間に、最初の不安の処理過程を忘れる。
すると、
「そういえば、あれはどうなった?」
と、最初の不安が再び出現する。
これはSNSのタイムラインによく似ている。
不安A
↓
不安B
↓
不安C
↓
不安D
↓
「そういえばAは?」
↓
不安A再登場
この状態では、地球人には、
「次から次へと新しい敵が出現している」
ように感じられるようだ。
実際には敵が増えているとは限らない。
単に、脳内に「処理済み」という明確な記録を保存できていないのである。
結果として地球人は、
見えない敵と、多勢に無勢の状態で戦うことになる。

5.「メモ」という奇妙な文明装置
ここで地球人は興味深い発明を行っている。
それが「メモ」である。
脳内に保持しきれない情報を、紙や電子機器などの外部に保存する。
これは単なる記録ではない。
「その問題は消えていない。ここに保存されている」
という安心感を脳に与える。
つまりメモとは、
脳内世界と外界を再接続するための足場
と考えられる。
ただし夜間には、この合理的な方法さえ実行できない場合がある。
「メモを書けば安心できる」
と思いながら、
「でも起き上がったら眠れなくなる」
と考えるからである。
実に地球人らしいジレンマである。
6.そして地球人は「考えるな」と命令する
さらに奇妙な行動が観察された。
不安が増えてくると、地球人は自分自身に、
「悪いことを考えるな」
と命令する。
しかしこれは必ずしも成功しない。
なぜなら、
「悪いことを考えるな」
という命令を理解するためには、まず「悪いこと」を頭の中に登場させる必要があるからである。
これは、
「キンキンに冷えたビールを絶対に飲んではいけない」
と言われたビール好きの地球人が、なぜかビールを想像してしまう現象と同じ構造を持つ。
つまり、
「考えるな」という努力そのものが、考える対象を意識上に留めてしまう可能性がある。
夜間の不安に対して「不安を消そう」と力むことは、場合によっては逆効果なのである。
7.最も興味深い個体群
我々が特に注目しているのは、
几帳面
真面目
責任感が強い
問題を放置できない
先のことをよく考える
という特徴を持つ地球人である。
彼らは昼間には非常に優秀である。
問題を発見し、予測し、対策を考え、行動する。
ところが夜になると、その能力が環境との相互作用によって反転する可能性がある。
昼間には武器だった、
「先を読む能力」
「問題を発見する能力」
「責任を持つ能力」
が、夜には、
「まだ起きていない問題を生成する能力」
として働いてしまうのである。
これは非常に興味深い。
結論
地球人が夜になると悩み、眠れなくなる理由について、我々は以下の仮説を提出する。
夜間には、
外界からの入力が減少する
↓
脳内世界が拡大する
↓
身体の行動自由度が低下する
↓
脳内で生まれた問題を現実へフィードバックできなくなる
↓
未処理の不安が次々と出現する
↓
問題解決できない焦りが発生する
↓
「早く眠らなければ」という焦りが加わる
↓
さらに認知的覚醒が高まる
↓
眠れなくなる
↓
「眠れない」という新たな不安が生まれる
↓
さらに脳内世界が拡大する
という循環が発生する。
つまり地球人は、夜になると、
「脳は宇宙へ、身体はベッドへ」
という奇妙な分離状態に置かれる。
そして、身体を動かせないまま、無限に広がる脳内宇宙で、自分自身が生成した敵と戦う。
我々ジテロン星人から見ると、これは極めて不可解な行動である。
なぜ地球人は、最も高度な脳のメンテナンス時間である「睡眠」の直前に、わざわざ脳を最も忙しくさせるのであろうか。
現在も調査を継続している。
なお、地球人研究員からは、
「そもそも、悩みを止めようとすること自体が悩みを増やしているのではないか」
との意見も提出されている。
我々はこの意見について、かなり有力な仮説であると判断している。
現在も調査継続中
以上、ジテロン星人による地球人調査報告書より
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