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夜行バス行脚
夜行バスでよりよく眠るには?
皆さん夜行バスに乗ったことはありますか? 僕はこのところ深夜バスを使って旅することにハマっています(笑)。でも、そんな夜行バスも初めて乗ったときは散々な経験をしたものでした……。
あれはまだ僕が20代の前半の若かりし頃……。当時、勤めていた会社で一週間の東京出張を命じられました。
当時勤めていた会社は、舶来のレースやサテンなど、特殊な生地を販売していたため、出張ともなれば、サンプルがぎっしり詰まったトランクケースをいくつも出張先に送り、帰る際に返送するのが常でした。
ところが、その東京出張の最終日、返送する荷物の中に、うっかり新幹線のチケットを入れて送ってしまうという失態をやらかしてしまったのです。
東京駅新幹線の改札前で、どこをどう探しても出てこないチケット……。気付いたときはあとの祭りでした。時間は夜の八時を既にまわっていました。
しかも、滞在中、何かと誘惑の多い東京で、所持金の多くを使い果たしてしまい、手持ちは9千円しか残されていませんでした(この時代ATMも夕方には閉まってたんですね……)。
新幹線のチケットを再購入するお金もなく、仕方なく上司に電話し、事情を説明するも、けんもほろろに「明日は大事な会議があるから、ヒッチハイクしてでも戻ってこい!」と一刀両断にされ、ほとほと頭を抱え込んだのでした……。
そんな時、思いついたのが、ちょうどその頃から台頭し始めていた夜行バスを利用するという手段でした。
今の時代なら、スマホでちょちょいと検索すれば、簡単に料金や行き先など調べられますが、当時はそんなドラえもんの道具のようなものがあろうはずもなく、シワシワの九千円を握りしめ、取りあえず大きな駅、新宿なら何とかなる!(願望)と信じ、山手線に飛び乗ったのでした。
新宿駅に着くと、ベテラン刑事の如く猛烈な勢いで、街行く人々に【聞き込み】をし、その甲斐あって西口付近から大阪行きのバスが出てるという【手掛かり】をつかみました。後はお金の問題と、席を確保できるかでしたが、運賃は、当時で8,400円でカツカツセーフ、座席も、幸運なことにキャンセルが発生し、奇跡的に大阪行の夜行バスに乗ることができたのです。
まぁ、乗ろうと思って乗った訳ではないですが……(笑)。
ところが、初めて乗った夜行バス……。
座席は三列シートでゆったりとしたリクライニング機能は、当時からあったのですが、こう見えて、わりと【デリケート】な僕にとって、とても眠れる環境とは言い難いものでした……。バスの大きなエンジン音と振動、それに長時間座ってると、腰がどーんと重たく、だる~くなってきます。
夜行バスに乗られたことのある方ならご存じと思いますが、昼の便と違い夜行便は、カーテンは閉めきられ、「就寝時間」となると【消灯】となり、車内は暗闇に包まれます。トイレ休憩も「就寝時間」に入ると基本的にありません。
もちろん、車内にはトイレが完備されてますが、暗闇の中、前後左右に大きく揺れる狭い車内を歩き、トイレにたどり着くのも至難の業で、まるで近くて遠い北方領土の如くただ、ただ眺めるばかりでした……。
結局、闇の中、悶々と重い腰とおしっこを我慢し、一睡たりともできず、翌日、体調の優れない体をひきずってそのまま出勤しましたが、もう二度とこんな経験だけはすまい、そう心に固く誓ったのでした。
以来、20数年間、夜行バスを避けていました……。
しかし、そんな僕が、去年からもう何度も夜行バスを利用し、長野や松本などに足を運んでいます。
もちろん、朝までぐっすり、という訳にはいきませんが、途中何度か目覚めるものの、小1~2時間位なら眠れるようになりました。
それもこの仕事に就き、眠るときの姿勢というものを考えるようになったからです。
バスのシートで寝るのも、寝床で寝るのも基本的には同じ。
体のどこにも力が入らず、姿勢を安定させることが重要で、それには、首と腰周辺にできる隙間をとにかく埋めることがポイントとなります。
そこで重宝するのが、トラベル用の枕とクッションです。
この二点を使うと、上図のように体の姿勢が安定し、揺れるバスの車内という悪条件下でも、ある程度、楽な姿勢を維持できます。
どちらも空気を注入して使用するタイプが嵩張らず便利。百円ショップなどで、手軽に手に入り、耳栓なども合わせて購入しておくと完璧です。
あとは、乗車する数時間前からは、水分をなるだけ摂らないこと。そして、普段、寝床で寝ているような「完璧な眠り」を決して望まないこと。仮眠できれば十分……という諦らめの気持も大切だと思います(笑)。
夜行バスを利用するメリットは、単に運賃が安いことに留まりません。
朝イチ着くので、その日を終日使えます。
また、電車で行くと、遠回りで乗り継ぎが入り、割高な運賃になりがちな区間ほど、路線が運行されているので、かえってバスの方が所要時間も短く、効率的に動けることもあります。
少々きつい旅にはなりますが、体力に自信のある方は一度トライしてみて下さい。慣れてしまえば、有意義な旅ができます。
(今回のお話は、2015年『眠りの楽屋裏通信』vol.48に掲載したものです)